「お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
ドアを開けた瞬間そう言われ、キラは自分の耳を疑った。
その正面で、にこにこ笑うのはピンクの髪の少女・ラクス。
先程のセリフももちろん彼女から発せられたものである。
キラは見開いた目でラクスの顔を凝視している。
ラクス本人はただにこにこ笑っていた。
「……あの、少し待っててくれる?」
少し考えて、キラはラクスに言った。
ラクスが素直に頷くと、だっとキラは部屋の中に入って行き、時計を見る。
デジタル時計は『23:55』を表示していた。
「……夜の11時55分………」
そう呟いてキラは大きく息をついた。
こんな時間に男の部屋に来るなんて―――。
無防備すぎるラクスにキラは泣きたくなった。
今すぐ部屋に帰らせようと、キラがドアの方へ行こうとする。しかし、思いもよらない光景が目に飛び込んできた。
ラクスがいつの間にか部屋に入って、あろうことかキラのベッドの上に腰掛けている。
「な、な、な!ちょっ、ラクス!なんで………」
変に意識してしまい、慌てふためくキラ。
それを無視してるのか、気づいていないのか。ラクスは何かをうきうき数えている。
「あ、あ、あの、へ、部屋に………」
「キラ様!」
「はい!」
突然、名前を叫ばれキラは思わず返事をしてしまった。
ラクスは真剣な眼差しでキラを手招いている。
「早くこちらへ!」
「へ?」
「早く!」
「わかりました!」
いつもと違うラクスの気迫におされ、キラは急いでラクスの横に座った。
「7………6………」
「ラ、ラクス?」
「……4………3………2…」
「?あ………」
「ゼロ!おめでとうです、私ー♪」
「!?」
いきなり自分を祝福したラクスにキラは目をむいた。
ラクスは笑ってキラの手を握る。
「ふふ。キラ様、ありがとうございます」
「え?」
「私、この瞬間をあなたといれたこと、嬉しく思います」
「え、え、え?」
わけもわからずお礼を言われ、話を進められたキラは戸惑う。
「え、なにが………ありがとうなの?この瞬間て………?」
「私が一つ、命を刻む瞬間です」
「???」
ラクスの言うことが、いまいち理解のできないキラ。
なので、再びラクスに聞く。
「ごめん、わかりやすく………」
「ですから今日は――」
「今日は?」
「私の誕生日、なのです」
手を合わせて、にっこり笑うラクス。
キラは、驚きのあまり固まっていた。
「?キラ様?」
目を瞬くラクスに、キラはわなわなと震えて言った。
「た………誕生日?君の………?」
「はい」
「―――っ」
ばっと、キラは立ちあがった。そして部屋の中をあさりだす。
突然、部屋を右往左往するキラをラクスは不思議そうに見つめる。
部屋の隅まであさったキラは、がくんと肩を落とした。申し訳なさそうにラクスの方を向く。
「ごめん……僕、なにも持ってない………」
「え?」
「だから………その、プレゼント………あげることができないんだ」
うなだれるキラに、ラクスは少し驚く素振りを見せると、優しく微笑んだ。
「物なんていりません……あなたと共に、誕生日を迎えることが出来たのですから。私にとっては、それが何より嬉しいプレゼントですわ」
本当に嬉しそうに言うラクスを、キラは心の底から愛しいと思った。
ベッドに座るラクスの前へ行き、ラクスと自分の額をこつんと合わせる。
「今日は君と、ずっと一緒にいるよ」
「お仕事はよろしいのですか?」
「ストライクの整備は終わらせているから」
「では、戦いが始まってしまったらどうしますの?」
「………一瞬で終わらせる……か、それとも………」
「それとも?」
「一緒に、ストライクに乗ろうか?」
「まぁ………」
ラクスはくすくすと笑った。
キラも、優しく微笑んでいた。
だって、今日は君と離れたくないから。
君にとって、そして僕にとっても大切な日。
愛しい君が生まれた日。生まれてきてくれた日。
だから、今日だけは――――――
END
‐あとがき‐
2003年のラクスの誕生日記念に書いたものです。
キラさん、ストライクにラクス乗せちゃいけませんがな(笑)←自分が書いたくせに
こうやって改めて自分の作品を見てみるとこっぱずかしいけど、楽しいです。
まだ種がどんな展開になっていくか全然見当もつかない状態で………懐かしいなぁ。
再up:04.12.12
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