太陽の光を受け輝く海を行くアークエンジェル。そのデッキでストライクのパイロット・キラは一人、束の間の休息を取っていた。
もやもやした心が、心地よい風に吹き流されていくのを感じていたキラは、ふと誰かがやってきたのに気がついた。
「………カガリ?」
訪れた人物を確認し、キラは目をしばたかせる。
「よぉ。隣、いいか?」
「うん」
キラが頷くとカガリはにっと笑って隣に腰を下ろした。それを見ていたキラは首を傾げながら言う。
「どうしたの?何か用?」
「ん―――」
カガリは少し考えるように黙ると、ばつの悪そうに口火を切った。
「あの……な。その……この間さ、言ったろ?」
「………何を?」
「だからー……変だって………」
「え………あ」
『コーディネイターのくせに地球軍にいるなんて変だぞ』
以前カガリに言われた言葉がキラの頭の中に響いた。
思い出したらしいキラを、カガリは上目遣いで見上げ、思いきり頭を下げた。
「ごめん!なんか………悪いこと言ったよな」
本当にすまなさそうに手を合わせるカガリに、キラは微笑を浮かべる。
「いいよ、気にしないで」
「でも!」
「本当に……いいんだ。僕は気にしてないから。だってさ、地球軍にいたいとか、皆を守りたいとか思うのは僕が僕だからだよ。コーディネイターとか関係ない」
目を伏せ、はっきりと言うキラにカガリは驚いた。いつもとは違うキラを見ている気がした。
「……お前が、お前だから………か。そうだな」
ふっと笑うカガリにキラは笑い返して、おもむろに空を見上げる。
『あなたが優しいのは、あなたがあなただからでしょう?』
ずたずたの自分の心を救ってくれた一人の少女の言葉がよみがえる。
彼女は元気だろうか。不思議な娘だったな。でも優しくて暖かい、いい娘だったな………
そんな風に今はもう遠く離れた場所にいる少女に想いをはせるキラを、カガリが現実に引き戻した。
「おい。何を考えてるんだ?」
「え、あ………うん。僕にさっきのことを教えてくれた人のことだよ」
「へ――。誰なんだよ?」
興味深げに聞いてくるカガリに、キラは一瞬迷ったが教えることにした。宇宙にいた時の出会いを―――――
「………ふーむ、なるほど」
キラが話し終えると、カガリは納得したかのように頷いた。が、ふと何かに気づいたかのように目を一度瞬いた。
「なんかさー………」
「え?」
「その子って、まるで〈天使〉だな。」
「て………んし?」
カガリの言葉にキラは目を丸くした。脳裏を白い羽がよぎる。
「天使って、あの翼を持ってる神様の使いの天使?」
「あぁ。だってさ、ふわふわと中を舞って現れて―――」
無重力のせいで、ポッドから出たとたん少女の体は浮かび上がって止まらなくなった。
「すっごく歌が上手いんだろ?」
ドア越しに聞こえた歌声は、今までに聞いたどの歌よりも綺麗だった。
「それで、お前を救う一言をくれた。で、帰っていった、と。ほら、〈天使〉じゃん」
ふわりと舞い降り、傷ついた人間を救う―――
それは天使そのものだった。
「………そうか」
キラは目からうろこが落ちたように、すっきりとした顔をしていた。
不思議な少女は天使だったんだ―――
苦しくて押しつぶされそうな自分を救いに来てくれたんだ―――――
「そうだったんだ………」
何か晴れ晴れした顔のキラに、カガリは怪訝そうに言う。
「おい、これは例えだぞ?おい………聞いてないし」
自分の声はもうは耳に入っていないらしいキラに、カガリはやれやれとため息をつく。
そしてそのまま立ち上がり、そうかそうかと頷くキラをほってデッキから出ていった。
澄みきった空を見上げ、キラは思う。
どうか
どうかもう一度、
この場所に、
自分の前に、
舞い降りてほしい―――――――
END
‐あとがき‐
なんかめっちゃよくありそうな話ですネ(爆)
これは結構修正加えました。
相当くさい内容だったんで(笑)
ラクスは天使だー!とこれを書いた当時は思ってましたね、大マジメに。(今もだろ)
えぇと。この話は読んでいただいたらわかりますように、砂漠編の後〜オーブ入港前の間の話ですね。
この時のキラさんは本編ではまったくラクスさんを思い出してくれませんでした。(泣怒)
そのストレスをぶちまけた作品です。
再up:04.12.13
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