「ここはもうちょっと速く動けるようにして……あと、ここも……」
 
ぶつぶつと呟きながら、キラはキーボードを弾いていく。
 
今、彼はストライクの中で整備を行っていた。連日の戦闘のおかげで、ストライクも細めに見てやらないといけないのだ。
 
カタカタと休まずに手を動かしていたキラは、少しすると一段落ついたようで息をついた。
 
「……よし、と。これで大体はいけるかな」
 
大きく伸びをしてキラはキーボードを上に押し上げる。首を鳴らしていると、ふいに視界にピンク色がうつった。
 
「………ん?」
 
キラは目を瞬かせる。あの色は………
 
「ラクス?」
「はい」
 
名を呼ぶとラクスが顔を出した。キラはやっぱり、とおかしそうに笑った。
 
「どうしたの?何か用?」
「いいえ、特に用があるというわけでは………なんとなく……」
 
ラクスは少しうつむくと、物言いたげな目でキラを見つめた。
じいっと見つめられてキラは軽く肩をすくめると、ふっと笑って手を広げた。
 
「くる?」
「………はい!」
 
ぱぁっとラクスは笑顔になり、嬉しそうに頷いた。ドレスの裾をつかんでストライクの中に入り込むと、キラの膝の上にちょこんと座る。
近づいた顔を見合して、二人は微笑み合った。
 
 
 
しばらく他愛のない話をしていると、ふいにラクスがきょろきょろと辺りを見回した。キラは不思議そうに首を傾げる。
 
「どうかした?」
「はい………あの時と同じだと思いまして」
「あの時?」
「キラ様が私をあちらに帰してくださった時のことですわ」
「………あぁ」
 
キラは思い出したように頷いた。
 
ラクスが一時、アークエンジェルにいた時のことだ。
救命ポッドで漂っていたのをキラが助けたのはいいのだが、あろうことかアークエンジェルはザフト最高評議会議長の娘である彼女を人質にした。それが許せなかったキラは独断でザフトにラクスを帰したのだ。
確かにあの時も今と同じ体勢で二人(+ハロ)でストライクに乗っていた。
 
「私はあの後、難なくプラントの方に帰れましたが、キラ様は………大変だったのでしょう?」
「………」
 
なんと答えていいのか解らず、キラは押し黙った。ラクスは悲しげに瞳を揺らす。
 
「辛かったのですね………」
 
そっとラクスはキラの頬に手を添えた。
キラはその手を掴んで、ゆっくり頷く。
 
ラクスの問いに肯定で答えた。
 
だが、キラはすぐに笑った。
 
「だけど……、また君が来てくれたからもう、大丈夫」
「本当ですか?」
「うん」
 
キラが曇りのない笑みを見せると、ラクスは安心したように目を細めた。
 
そのまま、無言で互いの瞳を見つめあうと、振れるだけのキスを交わす。
 
そしてまた瞳を合わせて微笑み合った。
 
「………歌を」
「え?」
「君の歌を聞かせて欲しいんだ………」
 
小さな声でのキラからの要望をラクスは笑って受け止めた。
 
手を組み、目を伏せて心を落ち着かせる。そいて優しく、ラクスは歌を紡ぎだした。
 
キラは自分の腕の中で奏でられる、この世で最も美しい〈音〉に心を委ねる。
ふわふわと体が浮いていく感覚がキラを覆う。
 
ここはストライクの中。今は戦闘中ではないけれど、それでもこの中でこんな風に―――――
 
キラはうとうとしながらそんなことを考えていた。
 

辛く哀しい想いしか味わえないと思っていたここで、まさか安らぎを得られるとは思えなかった。
 

君がいてくれたから、かな――――
 
 
 
「………キラ様?」
 
ラクスは目をしばたかせながらキラに声をかけた。
 
返事はない。
しかし、返事のかわりに小さな寝息が聞こえる。
 
いつのまにかキラは寝てしまっていた。
ラクスは微笑む。
 
あどけない寝顔。まるで子供のようだ。
 
愛しそうにラクスはキラの頭を撫でる。茶色の髪はさらさらしていて気持ちが良かった。
 
「………ん」
 
キラが小さな声をもらしたので、ラクスは慌てて手を放した。
 
「う……ん……」
 
うめきながらキラはもぞもぞと体を動かし、ラクスを抱えなおして抱きしめる腕に力を込めた。
 
「あらあら?」
 
ラクスは軽く目を見開くと、おかしそうに笑った。
どうやら、キラの夢の中ではラクスは抱き枕のようだ。
 
「キラ様ったら………」
 
子供のいたずらをたしなめる母のようにラクスは呟くと、自分もキラを抱きしめた。
 

抱き枕でも、なんでもいい。
キラが安心して眠れるのならば―――――
 

ラクスはただそう思う。
 
そして、自身もキラに身を委ね、心地よい眠りにおちていったのだった――――――
 

END
 
‐あとがき‐
 
すごい……ありえないことだらけのことを書けた昔の自分にびっくり。
 
だってラクスとキラが再会した時、ストライク木っ端微塵じゃん。どっかの自爆マニアによって(笑)
 
でもこれを書いていた時はフリーダムなんて存在知らなかったしー。
これ、3万HITかそこらへんの時のキリリクだしー。
ストライクの中での密会がリクだったしー。(だしだしウルサイ)
 
まぁ、これもパラレル的展開だということで、一つ穏便にヨロシク。です。
 
再up:04.12.13
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