あなたといるだけでいいのです
 
私はあなたの傍にいるだけで幸せです
 
どこかへ行かなくても
 
お話をしなくても
 
あなたのぬくもりを感じていられるなら
 

私は嬉しいんです
 
 
 
幸せの感じ方
 

 
 
「キラはまだお仕事をしてらっしゃるのでしょうか………」
 
ぽそりと、ラクスは呟いた。
 
周りには誰もいない。
いるのは、部屋の片隅で戯れているトリィとハロだけだった。
 

今、キラは今後の動きに関したアスランとの打ち合わせに行っていた。カガリや他の者も忙しいようで、特にすることもないラクスは自室でハロ達と休憩時間を過ごしている。
 
しかし、あまりにもキラの帰りが遅いので、退屈になってきた。
 
「一人はつまらないですわ………」
 
小さくため息をつく。
すると、ハロとトリィが飛びついてきた。
 
「ハロ!ラクス、ラクス!」
「トリィ!」
「あらあら」
 
ラクスは、ハロを手の上ににせ、トリィを頭にとまらせた。
 
「まぁ、すみません。あなた達が一緒でしたわね」
 
くすくすと笑いながらハロ達にそう言うと、ラクスはふと何かを思いついた。
 

「………キラにお会いしに行きましょうか」
 
ねぇ、とハロとトリィに尋ねるとハロがぴょんぴょん跳ね、トリィはばさばさ飛び回るので、ラクスはそれを了解の意ととり、すくっと立ち上がった。
 
「では参りましょう」
 
ぽんっと一つ手を打ち、ラクスは軽い足取りで部屋を後にした。
 
 
 

ラクスがキラのもとへと無重力の中、通路をふよふよと進んでいくと、突然ハロとトリィが曲がり角の先へと飛び出した。
そして、次の瞬間には誰かの驚いたような叫びが響き渡る。
 
「あらあら」
 
ラクスは慌てて――はたから見るとのんびりした動きだが――角を曲がり、ぱちくりと目を瞬いた。
 
「まぁ、アスラン」
 
そこには、仰向けに倒れて――この場合は浮いていうべきか――ハロとトリィにじゃれつかれてるアスランがいた。
 
「ラ、ラクス………」
「大丈夫ですか?」
 
ラクスはアスランのもとに進み寄り、ひっぱってやる。
 
「失礼しました………。ハロ、トリィ、いけませんよこんな事をしては」
 
めっとラクスが怒ると、ハロとトリィはしゅんとしたように大人しくなった。
その様にアスランは苦笑いを浮かべる。
 
「いいんですよ、別に。それよりどこかへ行くんですか?」
「はい、キラにお会いしに行こうと。もう、お話は終わりましたの?」
「あぁ、はい。だけど、キラの奴は格納庫に行きましたよ」
「格納庫ですか?」
「なんでも、フリーダムを整備するとかなんとか」
 
肩をすくめってみせるアスランに、ラクスはそうですかと頷いて格納庫へ向かうことにした。
 
「アスラン、ありがとうございました」
「いえ。それじゃ、俺はこれで」
「はい」
 
ラクスとアスランはお互いに手を振り合い、その場を離れていった。
 

「キラはどこでしょうねー」
 
格納庫へとやってきたラクスはきょろきょろと辺りを見回しキラの姿を探す。
 
「やっぱりフリーダムの中でしょうか?」
 
フリーダムを見上げながらラクスが言うと、トリィが飛び上がった。そしてフリーダムのコックピットの中に入り込む。
 
するとトリィに連れられたような形でキラが顔を出した。
 
ラクスはぱぁっと笑顔になり、手を振る。
 
「キラ――」
 
大きな声で呼ぶとキラはラクスに気づいて慌てて降りてきた。
そんなキラを笑顔でラクスは迎える。
 
「ラクス、どうしたの?」
 
キラは突然やって来たラクスに驚いているようだ。
何度も目を瞬く。
ラクスはにこりと笑って簡潔に答えた。
 
「キラに会いに来ましたの」
「え?」
「お帰りが遅いので、自分からやってまいりました。ご迷惑でしたか?」
 
ちらりと上目遣い見上げてくるラクスに、キラは慌てて首を振る。
 
「まさか!ごめん、ちょっとフリーダムが気になったから………」
「いいんです、キラにちゃんと会えましたから」
 
そう言いながら、ラクスが柔らかく微笑むと、キラは軽く頬を染めた。
 
「じゃ、じゃあ帰ろうか」
「フリーダムの整備はいいんですの?」
「大丈夫。もう、することもないし」
 
キラがそう言って笑うと、ラクスは嬉しそうに頷いた。そしてキラの手を取ると、ハロとトリィも連れ、行きよりも軽い足取りで部屋へと戻って行った。
 
 
 
部屋に戻るとラクスはキラに色々と話し出した。キラもそれを笑って聞いてくれる。
 

「それでですね、キラ。ハロとトリィったらアスランに飛びついてしまって」
 

先程のアスランとの遭遇した時の話をすると、キラはおかしそうに苦笑した。
 
「トリィとハロにとってアスランは母親みたいなものだから」
「お父さんではなくて?」
「うん、お母さん」
 
にやっと笑うキラにラクスはくすくすと笑う。
 
「確かにアスランはお母さんですわね」
「ね。………ふぁっ」
 
ラクスに頷き返したキラは、ふいに小さなあくびをもらした。
 
「キラ、眠いのですか?」
 
ラクスが聞くと、キラは首を振る。
 
「ううん。平気………だよ」
 
そう言うキラの目はしょぼしょぼとしていた。
ラクスはあらあらと笑う。
そしておもむろに手を伸ばし、キラの頭をそっと自分の膝の上にのせた。
 
「へ………?」
「さ、お休みください」
「お、おや……ってえぇ!?」
 
急な自体に、キラの顔は真っ赤に染まる。
 
「あ、その………でも!」
「でも?」
「……僕が寝たら、ラクス……また退屈しちゃうんじゃ………」
 
ついさっきまでラクスが一人でいたことを申し訳なく思っているらしいキラに、ラクスは目を瞬くとにこっと笑った。
 
「いいんです。私はキラがいてくれればそれで………。さ、お疲れなんですよ。ゆっくり眠ってください」
 
ぽんぽんとラクスはキラの胸を優しく叩いた。
 
キラは困ったようにでも、だけど、やっぱり、と言い募っていたが、ラクスにそれら全てを笑顔で流されてしまう。
しばらくして諦めたようにキラは大人しくなった。
すると、次第にうとうとしてきたようで、ゆっくりと目を閉じる。
 
「ラク……ス……ごめ………」
 
言い終わらないうちに、キラはすうすうと寝息をたてだした。
 
その寝顔を見ながら、ラクスは幸せそうに微笑む。
 
キラは謝ってきたが、ラクスは本当にキラが寝てしまってもなんとも思わない。
 
ちゃんと傍にいてくれるから、ぬくもりを感じさせてくれるから平気だった。
 

「キラ……ずっと……ずっと一緒にいてくださいね」
 
ラクスはそう言うと、眠るキラの頬に、柔らかなキスを落とした―――――
 
 
 
あなたの傍で過ごせる
 
あなたのことを見つめていられる
 
あなたに触れていられる
 

それが私の、幸せの感じ方―――――
 
END
 

‐あとがき‐
 
珍しくラクス視点です。
ほのぼの系です。
 
これを書いてた時、なぜか無償にアスランはトリィとハロの『お母さん』だ、と言いたくて……(ナンダソレ)
だって絶対『お父さん』ではないでしょう。あのヒトは。
 
つーか、そうなるとなんつー子だくさんなマミーだョ(笑)
 
キララクはこういう話も好きだけど、やっぱ書いてて笑けてくる(ぉい)のは黒キララクだと改めて実感しました。
 
再up:04.12.16
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