medicine
 

 「ラクス、これはこんな感じでいいのか?」
 
手に持ったフライパンを見せながらカガリはラクスに尋ねた。
只今、食堂のキッチンを借りて、ラクスに料理を教わっている最中である。
フライパンを差し出されたラクスはまぁ、と目を輝かせた。
 
「味見をしてもよろしいでしょうか?」
 
もちろんだ、とカガリは頷く。
了承を受け、ラクスはフライパンの中身を一つまみ口に運んだ。
味あうようにゆっくりと噛み、飲み込む。
 
「………ど、どうだ?」
 
不安気に尋ねてくるカガリに、ラクスはにっこりと笑って見せた。
 
「えぇ、美味しいですわ。ですがあともう少しだけお塩を加えてもいいかと」
「塩だな!わかった」
 
美味しい、と言われた事に安堵し、カガリは張り切って塩を少し加えた。そんなカガリを見ながらラクスは微笑む。
 
「ん?なんだ?」
 
自分を見て笑っているラクスに気づき、カガリは目を瞬いた。
ラクスはくすくすと笑う。
 
「いえ、カガリさんは本当にお可愛いらしいな、と思いまして」
「な!?」
「お料理、喜んでいただけるといいですわね」
「………うん」
 
真っ赤な顔をうつむかせてもじもじとするカガリを、ラクスは微笑ましげに見つめていた。
 
「そ………っ」
 
何か言おうと口を開いたラクスは、言葉の代わりに一つ咳をもらす。
 
「ん?」
 
カガリは耳に届いた咳に、顔を上げる。
すると、口元を手で覆ったラクスが何度も何度も咳をしているのが目に入ってきた。
咳き込むラクスの頬が心なしか、いつもより赤い気がする。
 
「ラクス、体調悪いのか?」
「…いいえ、大丈夫ですわ」
 
咳を押しとどめ笑うラクスに、カガリは心配そうに表情を陰らした。
 
「でも………顔色良くないぞ」
「平気ですから。さぁ、あとは仕上げを、しま………」
 
料理の続きに取り掛かろうとしたラクスはふらっとよろめいた。
 
「ラクス!」
 
慌ててラクスの体を支えたカガリは驚きに目を瞠る。
 
「め、めちゃくちゃ熱いじゃないか!やっぱり………」
「すみま、せん………」
 
今までずっと我慢していたのだろう。ラクスの息は荒く、目はうつろだ。
カガリはぐっと唇を噛み、ラクスを背におぶった。
 
「と、とりあえず部屋に戻ろう!」
 
足に力を込めて立ち上がり、もう返事を返すことすら出来ないラクスを背負って、カガリは食堂を出て行った。
 

「おい、キラ」
「ん?なに?」
かけられた声に、キラはキーボードを打つ手を止めずに返事をした。声の主はわかっている。アスランだ。
 
「お前、まだやるのか?」
「うん。もうちょっとで新しいシステムが出来るんだ」
「お前も好きだな、そういうの」
「まぁね」
 
簡素な返事を返して、作業に熱中するキラにアスランはふぅと息をつく。と、離れたところに鮮やかな金髪が見えるのに気づいた。
 
「カガリ!」
 
ぱぁっと笑顔になったアスランが呼ぶと、カガリはこちらに気づき、慌ててやって来る。
 
「なんだ?どうした?俺に会いに来たのか?」
「違う!お前じゃなくてキラだ!」
 
犬のごとく引っ付いてくるアスランを押しのけカガリは怒鳴った。
 
「え、僕?」
 
やっぱり手を止めずにキラは首を傾げる。
 
「そうだ!大変なんだ!ラクスが!」
 
カガリの口から出た名前に、キラはぴたりと動きを止めた。
 
「………ラクスが、なんだって?」
「だから!えっと、そのー!」
 
焦りのせいかカガリは上手い言葉を見つけられない。
キラはパソコンからカガリに向き直る。
 
「落ち着いて。順番に話して」
「あ、あぁ………」
 
キラに諭され、カガリは一度深呼吸した。
 
「え、と。さっきまで、ラクスが私に食堂で料理を教えてくれてたんだ。そこで………」
「カガリが料理!?」
 
素っ頓狂な声を上げたのはアスランだ。キラは続きを聞こうと黙っている。
カガリはかぁっと頬に朱をのぼらせた。
 
「わ、私はその………お、お前に………」
「俺に?」
「た、食べさせてやりたくて………」
 
いつもラクスがキラに何かを作っているのを見てはアスランは羨ましがっていた。だからカガリも………
 
「―――っ!カガリ――!!」
 
感激したアスランはがばぁっとカガリを抱きしめた。
 
「わぁっ!離せぇーっ」
 
じたばたと暴れるカガリをアスランは離すまいと力を込める。が、キラがべりっと二人を剥がした。
 
「キラ!邪魔す………」
「邪魔なのは君だよ。ちょっと黙ってて」
「………はい」
 
ぎろっとかなり危険な目つきで睨まれ、アスランはおとなしくなった。
 
「カガリ、それでどうしたの?」
「あ、あぁ!それで、なんか体調が悪かったらしく、ラクス、倒れちゃったんだ!」
「な!」
 
話の結末にキラは、目を瞠る。
 
「なんでもっと早く言わないんだよ!」
「だ、だって!アスランが!」
「え!俺のせい!?」
 
カガリに指を指され、アスランはぎょっとした。
 
「ちょ、キラ!俺のせいじゃ………ってぉわっ!」
 
弁解しようとキラを振り返ったアスランの顔面めがけて、びゅんっとパソコンが飛んできた。間一髪でアスランはそれをよける。
 
「キ、キラ!って………あれ?」
「キラならもう行ったぞ」
「…………あ、そ」
 
 
 

全速力で廊下を駆け抜け、キラはラクスの部屋へと向かった。
 
部屋の前まで来ると、急停止し、そっとドアをあけ、音を立てないように部屋へと入り込む。
 
ラクスはベッドで眠っていた。額には濡れタオルがある。カガリがやったのだろう。
 
「………」
 
キラはベッドの横に膝をつき、すぅすぅと眠るラクスの顔を覗き込んだ。濡れタオルを取り、額に手を当てる。
 
「熱いな………」
 
ため息混じりに呟く。かなり熱は高いようだ。濡れタオルももう冷たくない。
 
「……ん」
 
ラクスが小さく声を上げた。のろのろと瞼を開ける。
焦点の定まらない空色の瞳を、キラは覗き込んだ。
 
「大丈夫?気分は?」
「キラ………?」
「そうだよ」
 
キラが返事をしながら手を握ると、ラクスは嬉しそうに笑った。
 
「来て、くれたんですね」
「うん。………朝から調子おかしかったの?」
「えぇ……少し」
「じゃあ、なんで休まないの?カガリに料理教えるなんて、明日でもいいじゃないか」
 
キラはため息をつく。
だが、ラクスはふふと笑った。
 
「ですが………カガリさんがあまりにも真剣でしたから。本当に、頑張られて………」
「だからって………。いや、ラクスらしいかな」
 
ふっとキラは肩をすくめた。
そんなキラに笑い返そうとしたラクスは、喉に押し寄せてきたものに顔を歪める。
 
苦し気な咳が部屋に響いた。
 
「ラクス!」
 
咳き込むラクスにキラは慌てた。
 
「だ、大丈夫?」
「え、えぇ………平気、です。」
 
荒い息づかいで微笑むラクスにキラは顔をしかめた。
 
「………」
「キラ………?」
 
押し黙るキラにラクスは小首を傾げる。
 
その次の瞬間、唇で唇をふさがれた。
 
「ん!」
 
ラクスは驚いて目を見ひらく。
 
数秒、口付けを交わし、キラはラクスから離れた。
ラクスははぁと息を吐く。
 
「キ、ラ……風邪が、うつってしまいますわ………」
「いいよ、うつして」
 
きっぱり言いきり、キラはにこっと笑った。
ラクスはきょとんと目を瞬く。
 
「で、でも………」
「うつした方が早く治るし、ね」
「……キラったら………」
 
べっと舌を出すキラに、ラクスはくすくすとおかしそうに笑う。
 

キラは静かにラクスを見つめた。
 
熱のせいで潤んだ瞳、蒸気した頬。そして、いつもよりも弱々しい微笑み。
 
 
 
それら全てが、キラを再びラクスの唇へと引き寄せていった。
 
 
 
口付け
それは何よりも良く効く、甘い甘い薬―――――――
 
 
 
END
 
‐あとがき‐
 
さむっ!くさっ!甘っ!
 
な三拍子作品でした。(なんだそれ)
 
これもキリリクでした。
CPにはよくある風邪ネタですね。
恥ずかしい作品BEST5にはゆうに入ります。
この作品あたりから私の書くアスランはやられ役なバカになってます。愛が深まった証拠vv(は)
キラ攻めです。黒じゃないですよ?でも攻め!
風邪で寝込むラクスにちゅうvするなんて……本編では考えられませんなっ(泣笑)
 
これは修正加えにくくてほとんどそのまま。
はっずー!!
 
再up:05.1.
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