口、それは災いのもと
 
 
 

「っくしゅん!」
 
控えめで可愛らしいくしゃみが食堂に響いた。キラは雑誌をめくる手を止め、隣に目を向ける。
 
「ラクス、風邪?」
 
キラがそう尋ねると、ラクスはふるふると首を振る。
 
「いいえ、違いますわ。お気になさらないでください」
 
穏やかな笑顔を向けられ、キラはそう、と納得する。
そこでくしゃみについての会話は途切れるはずだったのだが、ふいに横からカガリと話していたアスランが会話に参入してきた。
 
「そのくしゃみ、誰かがラクスの噂でもしてるからじゃないか?」
「あらあら………どなたか私の悪口を?」
 
ラクスはいささかショックを受けたように口に手を当てる。キラはそんなラクスの頭を撫でた。
 
「ラクスが悪口なんか言われるわけないじゃないか。馬鹿アスランのたわ言なんて放っておきなよ」
「バ………別に俺は悪口だなんて一言も言ってないだろう!」
「言ってたらただじゃおかないよ」
 
全身から冷たく黒いものを放ち、キラはアスランを見下した。アスランはむっとするが何も言わない。いや、言えない。
そんなキラとアスランの間に流れるものには全く気付かず、ラクスはきょとりと目を瞬かせる。
 
「では、アスラン。どなたがどんな噂をしているのでしょうか?」
 
小首を傾げ聞いてくるラクスにアスランはう〜ん、と考える。
 
「そうですね………あ、密かにラクスに想いを寄せてる誰かじゃないですかぃててて!」
 
思案しながら話していたアスランは突然、左右の頬をそれぞれ引っ張られた。右はキラ、左はカガリだ。
 
「にゃ、にゃにふんらよ!」
「うるさい!お前は余計なことを言いすぎなんだ!」
 
抗議するアスランにカガリはびしりと言った。ちなみにキラは何も言わず、冷ややかな目をアスランに向けている。
 
「じょーらんじゃにゃいか!」
「お前のはたちが悪いんだよ!」
 
カガリは横目でキラを見ながら言う。キラの機嫌を悪くされてとばっちりを受けたくないのだ。
キラはやっぱり無言で手に力を込める。
 
「いでででで!」
 
アスランは目に涙をためてきた。
それまで静観していたラクスが、さすがに見かねて立ち上がる。
 
「お二人とも、もうそのくらいにしてあげては?」
「ら、らくひゅっ」
 
アスランは天の恵みだと喜ぶ。が、キラはピクリと眉をはねさせ、手に力を込めた。
 
「いだ―――!」
 
かなり強まった右頬の痛みにアスランは絶叫する。
それをきっぱり無視して、キラはラクスを見やった。
 
「ラクスは………アスランを庇うんだ」
「え?庇うって……そもそもアスランは何をしましたの?」
 
訳がわからず、不思議そうにするラクスにアスランは思いっきり頷く。キラはそんなアスランをぎっと睨みつけ、再びラクスへと視線を戻した。
 
「……ラクスはさ、アスランの言ったことどう思う?」
「言ったこととは?」
「君のくしゃみのわけ」
 
キラは忌々しげに言い放ち、ついでに右手にまた力を加えた。
 
「あぁ、私を噂してらっしゃる方がいる、と?」
「しかも君に想いを寄せてる、ね」
 
吐き捨てるように言って、キラはまた力を込めた。アスランはもう頬が麻痺して放心している。
昇天しかけのアスランにはやはり気付かず、ラクスはにこぉと柔らかく笑った。
 
「想いを寄せていただいてるなんて……なんだか嬉しいことですわね」
 
本当に嬉しそうにそう言うラクスに、キラはぴしっと固まった。アスランとカガリは真っ青になる。
 
「……へぇ。ラクスは、嬉しいんだ」
「えぇ」
 
満面の笑みで頷くラクスに、キラは不敵な笑みをうかべた。
笑み、と言っても笑っているのは口だけで。
 
目は怪しい光を帯び、輝いていた。
 

「ラクス、ちょっと部屋に戻らない?」
「え?あ、はい。かまいませんわ」
「じゃ、行こうか?」
 
にっこりとキラは笑い、ラクスの肩を抱いて食堂を出ようとする。
 
「いだだ!キ、キラ!手をはなへ!」
 
そのまま頬を引っ張って行かれそうなアスランが、思わず声を上げる。
 
「あぁ、忘れてた」
 
すっと弱まった指の力に、アスランはほっと息をついた。が、キラはさも当然のごとく言いはなつ。
 
「カガリ、こっちの頬、ヨロシク。手加減しなくていいから」
「わ、わかった」
「ぎゃ――!」
 
やっと解放されたアスランの右頬が、再び引っ張られ始めた。心なしか、さっきよりも数段力が強い。
 
「クァ、クァグァリ―――!」
「すまん!キラには逆らえない!」
 
いくら恋人の願いだとしても。
 
キラに逆らったどうなるか解らない。
 
ので、生贄を捧げるしかないのだ。
 
「じゃ、ヨロシクね。ラクス、行こう」
「はい」
 
この後、自分がどういう目にあうか、これっぽっちも気づいていないラクスはニコニコ笑う。
キラはくすりと笑って、ラクスと共に食堂を出て行った。
 
それを見送りながらカガリは哀れみの表情を浮かべる。
 
「……ラクス、かわいそうに………」
「俺!俺もくぁわいそーらぞ!」
「……………我慢だ」
「ひ、ひろい!」
 
アスランがそう悲哀の声を上げた次の瞬間
 
「アスラン、カガリ」
 
ぴょこんと、キラが顔を出した。
 
カガリとアスランは硬直してしまう。
そんな二人に、キラはにまっと笑って言った。
 
「僕の部屋、しばらく誰も近づかせないでね」
「「…………」」
「返事は?」
「はい!」
「ひゃい!」
「ん、じゃあね」
 
満足気に相槌を打って、キラはひらひらと手を振りながら去った。
残された二人はゆっくりと顔を見合わせ
 
「ラクスがんば」
「がんびゃ」
 
としか言えなかった。
 
 
 

END
 
‐あとがき‐
 
アホあすと黒きら様でした。まる。
 
いや、アスランは何にも悪くないですけどね(笑)
 
キラが勝手に怒って勝手に黒くなって勝手にラクスをおそ(以下省略)
 

これはいつ書いたものかなぁ……中学かなぁ、もう高校上がってたかなぁ………どうでもいいや(いいんかぃ)
 

再UP:05.03.14